冬季におけるヒグマによる人身事故について

こんにちは。
ウ○コです。ご無沙汰してます。

 1月26日に標茶町でヒグマが人を襲い、結果人が1名亡くなるという事故が発生しました。
まず、お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りします。

今回の事故に関しては「ヒグマが本来冬眠している時期の事故」である点で非常に珍しいですよね。http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/588428.html

今回の事故に関する考察を自分なりにおこなってみたので、勝手に投稿したいと思います。
意見がある人は、フェイスブックではなくこの記事に対するコメント欄に直接書き込んでくれたら嬉しいです。



事故発生地点は林道脇の人工林(下図)で、そこに冬眠穴もあったみたいです。

標茶町HPより(http://www.town.shibecha.hokkaido.jp/yakuba/60_gyosei/50_bosai/20_caution/kumap/)

十字が事故現場(少々ズレ有り)
冬眠穴のあった人工林は、製材時における商品価値を高めるための「枝打ちをしている」、すなわち「手入れされている人工林」であることが考えられます。そのため下草刈りなどもされて、見晴らしの良い林であったのではと思います。見晴らしが良くて人が出入りしている場所に冬眠穴があった、という事実に違和感を覚えます。

 そこで文献にあたってみますが、北海道における冬眠穴の研究は様々な人がそれぞれの視点からおこなっており、結構まとまっていないのです。(泣)冬眠穴の設置場所については、ハンターさんによる経験則やら某研究者さんによる又聞き論文、ヒグマ通信の報告書やらで情報が錯綜しています・・・・・・
 とりあえず、ここでは「エゾヒグマ」(1980,北大ヒグマ研究グループ,汐文社)を見てみましょう。
P229にちょうど冬眠場所と森林施業について述べてある箇所がありました。冬眠穴27例の内人工林内にあったのはたった1例であるが、他の調査によると「下草刈りせずに放置した人工林では冬眠穴を作ることがある」そうです。しかし、今回発見された冬眠穴は、整備された人工林内にあった(推測)ということは前述の内容と矛盾しています。

 次に、今年度の標茶町におけるヒグマの出没情報を見てみます。標茶町HPでは、クマの情報が発見地点と日時、痕跡の種類などが載っているグーグルマップ(URLにkumapと書かれているで以下クマップとする)が見れます。
http://www.town.shibecha.hokkaido.jp/yakuba/60_gyosei/50_bosai/20_caution/kumap/
クマップによる今年度のクマ目撃情報によると、事故現場付近の町道で度々仔連れの親子熊が目撃されているそうです。そして今回の事故を起こしたクマは仔連れの母グマであることが分かっています。しかし、目撃されたクマと事故を起こしたクマが同一のクマかどうかは不明ですし、メスグマは行動圏が重複することで知られているので別個体の可能性も高いです。

 人馴れしたクマが冬眠穴の設置場所をどのように選択するのかは不明なので、これも推測ですが、今回のクマの冬眠穴が日頃から人が出入りしている管理された人工林内にあったのは、もしかして偶然ではなかったのか??という疑問が浮かびます。
 前述した、冬眠穴に関するクマ研の調査が実施されたのは1970年台後半から1980年くらい、すなわち春グマ駆除が実施されていた時代です。この時代のクマは人に追いかけられた経験から人を恐れていました。しかし、春グマ駆除廃止(1990年)以降のクマは人の怖さを知らない「新世代クマ」であり、彼らは人里に降りてくることを厭わない、という話はよく聞くと思います。
まあ、春グマ駆除が無くなったら捕獲圧が小さくなりクマの生息密度も高くなるだろうし、札幌に関しては山麓の開発とかもあるし、出没が増えたことは「新世代クマ説」にのみ起因するわけではないでしょうけど。

 ですが、冬眠穴の選択に関しては春グマ駆除前後では大きく影響を与えていると思います。春グマ時代は、冬眠明け、冬眠中のクマを捕獲していたので、人に見つかるような穴で冬眠していたクマは淘汰されただろうと考えられます。しかし、春グマ廃止以後はクマは冬眠穴をそれほど慎重に選ばなくても淘汰されないでしょう。

 今回のクマ事件は時代背景と過去の文献を基に考えると、偶然では無く起こるべくして起こったのかもしれないですね。冬眠穴の付近で作業をしていたという点では襲われた方は運が悪いですが、こういった事例は特異なものではなく、今後も起こりうると考えるべきではないかと思います。
ただ人身事故に繋がってしまったということは残念です。
 こういった事故を未然に防ぐ対策としては「冬眠準備期に人が入るエリアを撹乱してやると良い」(JBNメーリスへのY氏の投稿より)みたいです。

ということで、冬の山でもクマ対策はしっかりして入りたいものですね。

編集後記
事故の検証ではなくて最終的に冬眠穴の設置場所に関する考察になってしまった。。。事故現場行って現場検証と冬眠穴の計測したいーーー。

因みに、冬眠穴絡みですが、今年度は2年ぶりに冬眠穴調査復活します!! 乞うご期待!!!


あと、事故に関する報道を下記に貼り付けときます
NHK;http://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20150127/4990001.html
日テレ;http://www.news24.jp/articles/2015/01/27/07267984.html
読売;http://mainichi.jp/select/news/20150127k0000m040061000c.html

補足:冬眠していないヒグマによる事故か、冬眠中に伐採音で起こされたヒグマによる事故かどうか、記事ごとに違いますが冬眠穴が付近にあることより、多分後者でしょうね。
ニュースではM氏もおっしゃってますが、道東の場合はエゾシカの死体や、今年で言うとミズナラ大豊作なのでミズナラの堅果を食べて越冬しないクマがいるかもしれませんが。。。

以上長文失礼しましたm(_ _)m

コメント

  1. こんにちは。大変興味深く読まさせていただきました。

    クマ類は専門外なのですが、一度冬眠から起こされたクマはもう一度同じ穴に戻るのでしょうか?それとも、新しい穴を見つけるのか、もしくはその冬はずっと覚醒したまま過ごすのでしょうか?

    と、ここまで書いて、この記事(http://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20150131/5092091.html)を見つけました。これによると、母熊は戻らなかったようですね。

    冬眠中に覚醒させられたクマのその後の行動などは、マネージメントを行う行政や役場にとっては重要な情報となると思うのですが、そのへんはエゾヒグマに関しては研究されていたりするのでしょうか?

    冬眠穴調査の報告楽しみにしています。がんばってください。

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    1. 福田様
      コメントありがとうございます。
      これは推測ですが、今回の場合人間に撹乱された結果、冬眠穴を放棄したという流れなので、同じ穴には戻らないのではないでしょうか。
      因みに、普通の冬眠明けの時期のヒグマは穴から出た後に、穴付近をウロウロしたり戻ったりするみたいです。

      正直言って、あのクマがこの後どうなるかは分かりません。あまりヒグマの生理については詳しく無いので、そもそも再び眠りにつけるかどうかもわからないです。すいませんm(__)m

      覚醒したまま冬を超す事は可能であると思います。記事にも書いていますが、今年の北海道東部はミズナラが豊作でした。雪をほじくってミズナラを探すことは可能であると思います。
      そして道東にはエゾシカの捕獲残滓もかなり有ります。特に標茶は結構シカを捕獲している地域なので、ヒグマが冬を超すのに十分な量があると思います。
      ただし、猟友会で捜索をしているので見つかって「ズドン」される可能性も高いです。

      冬眠中に覚醒させられたヒグマがその後どうなるかについては、事例はあるかもしれませんが研究という枠組みでは取り組まれていないと思います。そもそも冬眠に関してもあまり研究は進んでいないので、現状では付近を立入禁止にするくらいしかできないと思います。

      クマ関係者にできることは、森林施業者へのヒグマ対策レクチャーくらいなものですかね。

      以上です。  冬眠穴調査頑張ります(^^)

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    2. 詳細な返信、ありがとうございます。これからは冬眠中のはずのクマによる事故がさらに増えていくかもしれないですね。冬眠に関するヒグマの行動とその対策含め、研究と啓蒙が進んで少しでも軋轢が減っていくといいですね。

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    3. 福田様
      本当にその通りだと思います。
      と言っているそばから、また人身事故発生しましたね。
      専門家の方から事故についてなにか、情報を頂いたらまたブログにアップしたいと思います。
      では。
      http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/589978.html

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