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お鉢平展望台の景色 |
調査地は主に大雪山黒岳頂上からしばらく歩いた先にあるお鉢平展望台と、朝日の名所である桂月岳の山頂です。私は7月にも一度黒岳に登る機会があり、その時あまりの景色の良さに感動したため、大雪調査が楽しみで仕方ありませんでした。しかしながらやはり1週間2000メートル級の高山に籠るとなると未知のことだらけで、登る直前はさすがに不安になりました。何より荷物の重さが一番の不安点でしたが、食料や必要なものを分担し、休憩もはさみながら何とか登ることができて良かったです。ちなみに私は登山前日、山籠もりを言い訳にお寿司とふわふわパンケーキを食べました。
ここからは時系列順に、クマ調査という名の山籠もり修行を振り返ります。私は趣味で野鳥を見ているため、調査中に見られた野鳥たちも紹介していきます。
1日目
黒岳に登頂したら、黒岳石室のテント場へ向かいます。ここが我々の拠点となります。その日はもうテント場についたのが15時頃だったため、初めての夕食づくりをして寝ることになりました。もちろんキッチンも水道もありませんから、鍋とガスバーナーでお米を炊きおかずも作ることになります。最初はお米が硬くなってしまい上手く焚けませんでしたが、見事な挽回を見せ、前の週の人たちが残してくれた鶏肉を足したりして美味しく食べることができました。「私もサバイバル飯づくりを身につけなければ」という強い意識が芽生えました。この調査は調査の最初と最後で米炊きの腕が上がることも見どころなのです。
そしてこの夜、私はいきなり生存の危機に晒されます。もうとにかく寒いのです。8月中旬という下界は夏真っ盛りだというのにさすがは北海道の高山、山を舐めていたつもりは全く無かったですが、これほど寒いとは思いませんでした。持っていた服を着こみまくり寝袋に入れば一晩越せましたが、防寒の重要性を思い知りました。
2日目
この日は隊長に連れられ調査地の下見へ行きました。大雪調査は基本3時起きで日の登る前から朝ご飯を作り(これがまた寒いんです、寝袋から出られないんです)、5時頃から15時までお鉢平展望台か桂月岳でクマを探すといったものです。この日は下見だったのでお鉢も桂月もどちらも行きました。桂月岳は頂上からの眺めが素晴らしく、魚肉ソーセージとビスケットという質素な昼ご飯でも、「この景色を眺めながら食べるギョニソは何より美味しい」と思うほどでした。
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桂月岳からの眺め |
この日は水汲みもしました。キャンプ場なら水はコンビニに行けば買えますが、テント場からコンビニに行こうとするとまず黒岳を下山しリフトに乗りロープウェイに乗り、層雲峡まで下りてセイコーマート層雲峡店まで行き、10リットル買いだめして再び登るという修行をしなければなりません。なので川に水を汲みに行きます。「川に水を汲みに行く」私はこの言葉だけでワクワクが止まりませんでした。そして水汲み係を志願し、なんとか10リットル背負って帰ってくることができ、ムキムキな石室のスタッフの方に褒めていただいたのが嬉しかったです。この水汲み、途中で川があるのですがそこには硫黄が含まれているため飲めないと教わりました。硫黄の毒はヒグマをも死に至らしめることがあるようです。見た目は綺麗な水なのに、気を付けなければならないと勉強になりました。
この日は水汲みもしました。キャンプ場なら水はコンビニに行けば買えますが、テント場からコンビニに行こうとするとまず黒岳を下山しリフトに乗りロープウェイに乗り、層雲峡まで下りてセイコーマート層雲峡店まで行き、10リットル買いだめして再び登るという修行をしなければなりません。なので川に水を汲みに行きます。「川に水を汲みに行く」私はこの言葉だけでワクワクが止まりませんでした。そして水汲み係を志願し、なんとか10リットル背負って帰ってくることができ、ムキムキな石室のスタッフの方に褒めていただいたのが嬉しかったです。この水汲み、途中で川があるのですがそこには硫黄が含まれているため飲めないと教わりました。硫黄の毒はヒグマをも死に至らしめることがあるようです。見た目は綺麗な水なのに、気を付けなければならないと勉強になりました。
この日はノスリ、チョウゲンボウ、推定ノビタキ幼鳥を見ました。チョウゲンボウは北海道では冬鳥だと図鑑で読んでいましたが割とこの後の調査でも見られ嬉しかったです。
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ノスリ |
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チョウゲンボウ |
3日目
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ビンズイ |
今回の調査中はずっと晴れで、お鉢平展望台で大きな岩にうつ伏せになってクマを探していたときはお日様がぽかぽかと照り付けあまりの心地よさに今の上で一瞬うたた寝してしまうこともありました。クマは見られませんでしたが、エゾシマリスがハイマツの身をかじっていて可愛らしかったです。この日の夜は雨だったため、石室の小屋を借りさせていただき中でご飯を食べました。この日はご飯もうまく焚けました。おこげ最高。
4日目
この日は朝から最高でした。寒いのを我慢してテントを出たら、なんと目の前のハイマツにギンザンマシコが止まっていたのです。
ギンザンマシコは北海道の大雪山系や羅臼岳、利尻富士で繁殖し、赤くて大きな体と太いくちばしがとてもカッコいい鳥です。夜明け直後の暗い中でも赤い体は抜群の存在感でした。
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ギンザンマシコ |
大切なことを言い忘れていました。ギンザンマシコももちろん嬉しいのですが、私たちが泊まったテント場は朝起きたらすでに雲の上なのです。この日に限ったことではありませんが、毎日朝日が大変美しかったです。
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テント場から拝む雲海 |
桂月の頂上で張り込みを開始すると、見たかった鳥、ホシガラスが飛んできました。ホシガラスは北海道から九州の高山に生息するカラスの仲間で星をちりばめたような美しい羽根をしています。ハイマツをくわえて飛んでいきました。
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ホシガラス |
黒岳をバックに岩にとまるホシガラスのシルエットもかっこよかったです。
この日はシマリスも近くを走り回ってくれました。1週目の人たちはクマを見つけられず、私たち2週目の調査隊も4日目でもクマが見つからずなかなか辛い思いをしていた時にたくさん癒してくれました。
5日目
そろそろクマを見つけねばマズイ。皆がそう思っていました。この日も私は桂月岳担当でした。桂月岳は朝日の名所なので、まずは朝日を見に行きました。これが本当に絶景だったのです。あたり一面に広がる雲海に朝日が照り付け雲海が金色に輝いていました。その横に
は悠々と聳え立つ黒岳があり、雲海の上をアマツバメたちが鳴きながら飛んでいきました。ここが天国かな、と思うくらいの絶景でした。
朝日を堪能しクマ探しを始めようとすると、一緒にいた隊長がずっと待ち望んでいた言葉を発しました。
「クマいた!!」
嘘でしょ、という思いで双眼鏡を覗くと本当にそこには立派なクマの姿があったのです。嬉しさと安堵で心がいっぱいになりました。
双眼鏡で姿を追いつつ、動画を撮影しました。その動画をもとにあと採食、顔上げなどの行動を記録するのです。数時間で姿は見えなくなりましたが、見られて本当に良かったです。我々クマ研が調査を開始する前の週にはいたという情報を得ていただけに、見られなかったらどうしようという不安がみんなありましたが、一週目も含めると10日目にしてようやく努力が報われました。私たちが帰った後、3週目と4週目の人たちもクマを無事見ることができたようで本当に良かったです。そしてこの日はクマが出た後は霧が濃かったので何も見えず、桂月岳の山頂でぼーっと空を眺めていたのですが、そのとき空から北海道では迷蝶であるアサギマダラが舞い降りてきました。山の上などでは時々風で飛ばされてきて記録があるようです。思わぬ出会いに感謝です。この日はテント場に帰ってお鉢平担当の人にその報告をし、明日はみんな見られますようにと話しながら就寝しました。
6日目
この日はよりクマの発見率が高い桂月岳にみんなで行きました。そしてクマを探していたのですが、ここでまさかの連絡が入ります。下山予定日の7日目の天候が悪いため、今日下山することになったのです。もう少しいたかったという思いもありましたが仕方ありません。この日はクマは見られず下山することになりました。下山するにつれどんどん気温が高くなり、久々に暑いと感じました。無事下山を終えたときにふもとのセイコーマートで先輩が一口分けてくれたチーズケーキが山籠もり後の体に染みわたりました。温泉に入り疲れを癒し、帰り道ではラーメンと豚丼のセットというなんとも豪華な食事をしました。麺類は山の上でも食べていましたが豚丼がもうとにかく美味しくて美味しくて、久々のお肉に歓喜しました。
山でずっと食べたかったアイスもコンビニで入手し、久々のアイスタイムを堪能しました。この日は6日ぶりに布団で寝ることができましたが、生活リズムが山になっていて翌日疲れているはずなのに4時に勝手に目が覚めました。ちょうど良いのでそのまま海にサイクリング兼鳥見に行き、久々の海をエンジョイしました。
私たちの調査はこうして幕を閉じましたが、大雪の美しい山々や夜の星空、たくさんの野鳥や動物たち、山の優しい人たちとの思い出は今でも鮮明に思い出されます。来年は1週間といわず、もっと入りたいなと思いました。
調査小話
山の上にいるとき食べたかった食べ物は?
1、 お寿司
2、 ソフトクリーム
3、 肉
山の上では行動食として一人一袋フルグラが支給されます。山の上で食べるこれが美味しくて美味しくて、霧が出て暇な時などついついずっとつまんでしまうのです。隣の人が食べだすと無性に食べたくなります。一粒ずつちびちび食べてときどきやってくるパインにびっくりする、ということもあったようです。しかしこのフルグラ、一袋食べるとなんと驚異の3600キロカロリー。生き残るためだ、仕方ない。と6日間で食べきりましたが山籠もりで痩せる作戦は失敗に終わりましたね。山の上で皆で作って食べるご飯は豪華ではないにしろ、普段の食事よりずっと美味しく感じました。
下山して感動したことは?
1、 岩じゃなくてソファに座れること。ほんと岩にしか座ってなくて帰ってきてもしばらくお尻痛かったです。ふかふかソファに座った時感動して泣きそうでした。
2、トイレが水洗なこと。
山の上のバイオトイレって面白くて、最後自転車こいでおがくずを発酵させて微生物に人間の排せつ物を分解してもらうんです。おかげで自転車が恋しくなることはありませんでした。水道があるのもありがたいです。下山して久しぶりに思いっきり水飲めて感動しました。
3、あったかいこと
やっぱりあたたかい場所は安心しますね。でも下山して2,3日すると山の上の寒さが恋しくなります。
風の吹きつける中雲を見下ろしながら岩の上でただひたすらクマを探していると、「山
降りたら世界が変わっていたらどうしようね」なんていう冗談も言いあっていただけ
に、双眼鏡で麓の街が見えた時妙に安心感を覚えました。
山に籠るとき持って行った方がいいものは?
1, 防寒具
ここまで散々伝えましたが、寒いとどうしようもありません。あるに越したことはないです。
2, 日焼け止め
山の上は日差しが強いです。日焼けしすぎると水ぶくれになり悲惨なことになります。もはや火傷です。帽子も必須です。
3, ひまつぶし道具
天候が悪い日は調査できません。テントの中で読む本や、他にも空き時間に写真を撮れるカメラや動物を探す双眼鏡があると倍楽しいでしょう。私は暇つぶしに「海鳥ハンドブック」と「シギ・チドリ類ハンドブック」を持っていきました。山でほぼ使わん二冊。でも高山にやってくるシギ・チドリ類もいるらしいですよ…
最後に大学生らしい話で締めましょう。そう、私が大雪調査に入って6日目、これが前期の成績の発表日だったのです。桂月岳の頂上に行かないと電波が届かなかったので、皆で桂月岳の頂上で成績を見て、どんな結果であれ思いは全て大雪の自然に受け取ってもらうつもりでいました。しか~し、天候の悪化で下山が早まった影響で桂月岳の頂上で成績を見ることはなく、結局リフト乗り場で見ることになりました。各々様々な結果を受け取り、落単のショックでリフトから落ちる者もなく、雄大な景色のおかげでダメージも少なかったように思います。私たちの間では、本来成績を見るはずだった桂月岳の頂上の岩は「成績開示岩」と名付けられ語り継がれていくのでしょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今後もクマ研をよろしくお願いいたします。
生き物合わせ
鳥類
ハリオアマツバメ
アマツバメ
ミサゴ
トビ
ハイタカ
ノスリ
チョウゲンボウ
ホシガラス
ノゴマ
ルリビタキ
ノビタキ
カヤクグリ
ビンズイ
カワラヒワ
ギンザンマシコ
昆虫類
イタヤハムシ
アサギマダラ
キベリタテハ
ミヤマカラスアゲハ
ダイセツタカネフキバッタ
アキアカネ など
哺乳類
エゾヒグマ
キタキツネ
エゾシカ
エゾシマリス
ナキウサギ(私は見てない)
両生類
エゾサンショウウオ
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